2025年3月14日
パキスタン北東部パンジャブ州ラワルピンディで、メイド(家事労働者)として働いていた13歳の少女が死亡し、雇用主の夫婦が殺害容疑で逮捕された。少女はチョコレートを盗んだとして暴行を受けたとみられており、この事件はパキスタン国内で児童労働と家事労働者への虐待を巡る激しい怒りと議論を再燃させている。

死亡した少女、イクラさん(13)は2月12日、複数の外傷が原因で病院で息を引き取った。初期の捜査では、日常的な折檻(せっかん)を受けていた可能性が指摘されており、警察は全容解明のため検視を進めている。BBCが入手した情報によると、イクラさんは両手足の複数箇所を骨折し、頭部に重傷を負っていたという。
イクラさんの父親であるサナ・ウラさん(45)によると、イクラさんは8歳から家事労働に従事し、2年前からは容疑者夫妻のもとで働いていた。月給はわずか約23ポンド(約4400円)だったという。父親は借金のため、娘を働きに出さざるを得なかったと話している。イクラさんは、警察から連絡を受けた父親が病院に駆けつけた数分後に意識不明のまま息を引き取った。
今回の事件は、ソーシャルメディア上で「#JusticeforIqra(イクラに正義を)」というハッシュタグと共に瞬く間に拡散し、何万もの投稿がなされている。活動家からは「貧しい人々はいつまで、自分たちの娘をこうして墓の中へと送り続けるのか」と痛烈な批判の声が上がっている。また、「これは単なる犯罪ではない。金持ちが貧乏人を使い捨てできるシステムを反映したものだ」と、社会構造への怒りを訴える書き込みも多く見られる。
パキスタンでは、パンジャブ州のように15歳未満の家事労働を禁じる法律がある一方で、国連児童基金(ユニセフ)によると国内で約330万人の子どもが労働に従事している。国際労働機関(ILO)は、家事労働者が約850万人に上り、その大半が成人女性と少女であると推定している。
過去にも同様の事件が世論の怒りを集めてきたが、多くは裁判を経ずに「許し」という形で解決され、容疑者が訴追されるケースは稀だ。2018年には、10歳のメイドを折檻した裁判官とその妻に禁錮3年の刑が言い渡されたが、後に1年に減刑された経緯がある。パキスタンの法律では、被害者やその家族が金銭と引き換えに容疑者を許すことが認められており、この仕組みが法の執行を妨げているとの批判も上がっている。
今回のイクラさんの死をきっかけに、子どもの権利保護と家事労働者の地位向上に向けた、より実効性のある法整備と社会意識の変革が求められている。
