ヒマラヤの小国が描くEV革命:ネパールが世界をリードする電気自動車化の道

2025年6月16日

雄大なエベレストを擁する人口3000万人のヒマラヤの小国ネパールが、世界の電気自動車(EV)普及において、驚くべき進展を見せています。ここ数ヶ月、ネパールで販売された新車乗用車の約70%が電気自動車を占めるという、先進国でも類を見ない状況が生まれており、「EVは豊かな国に限定される」という通説を打ち破っています。このネパールの「電動リープフロッグ」は、クリーンエネルギーへの転換を目指す世界中の国々に貴重な示唆を与えています。

水力発電が支える「電力の自給自足」

ネパールのEVシフトを可能にしているのは、その豊富な水力発電資源です。電力のほぼ全てを国産で賄い、2024年現在、人口の約94%が電力網にアクセス可能。さらに、送電網の信頼性も飛躍的に向上しています。このクリーンで安定した安価な電力は、EVの充電コストを劇的に削減し、運用面での大きなメリットとなっています。昨年度、石油製品の輸入に25億ドル以上を費やし、外貨準備を圧迫していたネパールにとって、EVへの転換は経済的な独立性を高める戦略的な一手でもあります。

大胆な政府政策が市場を牽引

ネパール政府の戦略的な政策が、EV普及の最大の原動力となっています。内燃機関車(ICE車)に300%以上の高額な輸入関税を課す一方で、EVの輸入関税を車両の種類とバッテリー容量に応じて25%から90%と大幅に引き下げました。これにより、EVはICE車に比べて安価、あるいは同等の価格で購入できるという、世界でも珍しい状況が実現しています。さらに、EV購入者への銀行融資優遇や年間登録料の引き下げといった補完的な措置も、購入を強力に後押ししています。

社会の隅々まで広がるEVの波

この変革は、単に自家用車に留まりません。首都カトマンズでは、電動三輪車「サファ・テンポ」が市民の足として定着し、市営バス運行会社Sajha Yatayatも電気バスの導入を推進。すでに約40台が運行され、さらに100台が計画されています。電気バスの運用コストはディーゼルバスの約30分の1とされ、公共交通機関の効率化に貢献しています。政府機関の車両も順次EVに切り替えられるなど、社会全体でEV化が進んでいます。

また、ネパール電力局による充電インフラの急速な整備も重要な要素です。現在約400箇所ある公共充電ステーションは、今後1年以内に倍増する見込みで、主要高速道路沿いには急速充電器も戦略的に配置されています。

大気改善、経済効果、そして未来への期待

EVへの移行は、カトマンズの深刻な大気汚染の改善に目に見える形で貢献し、住民の健康被害を軽減しています。経済面でも、石油輸入費の削減だけでなく、EVディーラー、サービスセンター、充電インフラの設置といった新たな分野で雇用が創出されています。地元で電動バイクを開発するYatri Motorcyclesのようなスタートアップの登場は、EV関連の製造業がネパールで育つ可能性を示唆しています。

日本への示唆

ネパールの事例は、発展途上国でもEV普及が急速に進み得ることを証明しており、日本にとっても多くの示唆を含んでいます。充電インフラの拡張、送電網のアップグレード、バッテリー廃棄物管理、EVサプライチェーンの確立といったネパールが直面する課題に対し、日本の先進技術やノウハウ、投資が貢献できる機会は少なくありません。

ネパール市場は中国やインドのメーカーが先行していますが、日本メーカーも、ネパールの市場特性に合わせた競争力のあるEVモデルを提供することで、新たなビジネスチャンスを掴める可能性があります。また、EV普及支援は、気候変動対策、経済発展、公衆衛生改善といった多角的な国際協力の新しい形としても注目されます。

ネパールは、賢明な政策、戦略的なインフラ投資、そして国民の意識変革によって、EV革命を力強く推進しています。このヒマラヤの小国の取り組みは、クリーンな交通システムへの移行を目指すすべての国にとって、具体的な道筋を示すものとなるでしょう。