バンコク 「ペットブーム」の陰で飼育放棄問題

2025年6月29日

タイの首都バンコクで、2026年1月よりペットの管理を強化する新たな条例が施行される。この条例は、新たに飼われる犬と猫に対し、マイクロチップの装着を義務付け、飼い主には身分証明書や避妊手術の記録などの提出を求めるものだ。経済発展と少子化を背景に空前のペットブームを迎えるバンコクだが、その裏では飼育放棄や近隣住民とのトラブルが深刻化しており、今回の条例はその対策として導入される。

「責任と共に愛してほしい」 都が強調する条例の狙い

バンコク都のタウィダ副知事は2025年5月の記者会見で、「飼い主には責任と共にペットを愛してほしい」と条例の意図を強調した。新制度の柱は、マイクロチップに飼い主の情報を登録する制度で、これにより飼い主の特定を容易にする。また、居住する物件の広さに応じた飼育可能頭数を定め、公共の場でのリード装着など具体的な規則も設ける。違反者には最大2万5千バーツ(約11万円)の罰金が科せられる。

バンコク都は2005年にも犬の飼い主登録制度を導入していたが、市民の理解が得られずに形骸化し、機能していなかった経緯がある。しかし、今回の条例は、急増するペット関連の問題に対応するための抜本的な改革として位置づけられている。

成長するペット市場と深刻化する問題

この間、タイでは大規模なペットブームが到来した。2020年頃からはペット用品店やペットサロンが多数出店し、ペット関連市場は活況を呈している。2026年にはペットフード市場が600億バーツ規模に成長すると予測されるほどの巨大市場となっている。

英字紙バンコク・ポストによると、新型コロナウイルス禍では家で猫を飼う人が増加。タイの少子高齢化が進む中で、未婚女性や子どもを持たない夫婦が犬や猫を飼う傾向が強まっていることも、ブームを加速させている要因だ。2026年施行の条例では、犬に比べて繁殖率が高いことを考慮し、猫も登録対象に加えることになった。

賛否分かれる現場の声

ペット販売店の受け止めは様々だ。バンコク中心部の市場で犬を扱う男性は、「逃げ出した際に捜しやすいし、飼い主にも利点がある」と条例に好意的な見方を示した。一方で、猫を販売する別の男性は、「マイクロチップ装着は小型の猫には体への負担が大きい。また、過去の例からルールが形骸化する不安もある」と懸念を表明した。

急成長を遂げるタイのペット市場の陰で顕在化した飼育放棄やトラブルに、バンコク都がどのように対処していくのか、新条例の運用が注目される。