エア・インディア墜落事故、インドで「飛行機恐怖症」が深刻化

2025年7月2日

インド西部アーメダバードで今月12日に発生したエア・インディア機墜落事故は、インド国内で深刻な影響を及ぼし、多くの人々の間で「飛行機恐怖症」が急速に広がっている。260人もの尊い命が失われたこの悲劇は、ソーシャルメディアやテレビを通じて拡散された墜落直前の恐ろしい映像と相まって、人々の航空機に対する信頼を大きく揺るがしている。

インド南部ベンガルールで飛行機恐怖症の専門施設「コクピット・ビスタ」を運営するディネシュ・K氏(55)は、事故発生以来、かつてないほどの多忙を極めている。空軍退役将校であるディネシュ氏の施設では、事故前まで月に10件程度だった問い合わせが、一気に100件以上に急増したという。

**「飛行機恐怖症は飛行中の音や振動に関係することが多い。暴露療法が唯一の解決策だ」**とディネシュ氏は語る。彼の施設では、ボーイング機とセスナ機のフライトシミュレーターを用いて、患者が離着陸や飛行中のあらゆる振動・音を体験し、それらが危険信号ではないことを理解させるセラピーを提供している。

ロイターが入手したディネシュ氏のWhatsAppメッセージには、事故後に「自信を失った」という声や、「事故の惨状に対するショックが大きすぎる」といった切実な相談が寄せられている。

機材や航空会社への不信感も

今回の事故機はボーイング787-8「ドリームライナー」であったことから、一部の旅行者は航空会社だけでなく、機材の種類(ボーイング機かエアバス機か)を吟味するようになっている。ロンドン在住の25歳のインド人コンサルタントは、事故前日にボーイング777でムンバイに飛んだばかりだったといい、「もうボーイング機は選ばないようにしている。今は血も凍るほど恐ろしい。飛行機で戻りたくない」と心情を吐露した。

一般的に航空機による移動は安全であり、国際民間航空機関(ICAO)によれば2023年の離陸時の事故発生率は100万回あたり1.87回と極めて低い。しかし、複数のメンタルヘルス専門家は、エア・インディア機墜落の映像が旅行者のパニックを引き起こしたと指摘。不眠症に悩まされたり、フライト情報から目が離せなくなったりする人々が、助けを求めているという。

旅行業界にも影を落とす

ムンバイの中堅旅行代理店ジャヤ・ツアーズによると、事故以来、多くの旅行者がエア・インディア以外の航空会社を利用したいと希望するようになっている。2022年に民営化されタタ・グループ傘下に入ったエア・インディアは、サービスの悪さや機材の老朽化を巡って以前から批判に晒されており、今年に入ってからも緊急脱出スライドの点検不足を警告されていた経緯がある。

インドの旅行代理店1600社以上が加盟するインド・ツアーオペレーター協会(IATO)は、墜落事故直後に飛行機予約件数全体が15〜20%減少し、さらに予約済みの30〜40%がキャンセルされたと発表した。IATOのラビ・ゴサイン会長は「機材が何かという極めて異例の問い合わせを受けている。以前の搭乗者は機材など全く気にしていなかった。人々はドリームライナーという言葉を耳にしたくない」と、異例の状況を説明した。

今回の事故は、インド国内の航空業界と旅行業界に深刻な影を落とし、人々の移動手段に対する意識を大きく変えようとしている。